ホルンは金管楽器の中で、一番難しい楽器と言われています。
そもそも、中学生で初めて吹奏楽の世界に足を踏み込む時に率先して、『ホルンをやりたい!』という生徒さんをあまり見た事が、私はありません。
多分、『難しい』を通り越して、『どうやって音を出すのかすら分からない位、難しい楽器』のカテゴリーに、入れられてしまっているような気がするんです。
実情として、ホルンを吹く時は前を向いて吹くのに、音が出るベルは後ろを向いているわ、管が細く長い割には、ベルは幅広いわ、では吹奏楽初心者が尻込みするのも無理はないと思うんです。
正直、私も中学・高校でトランペットを吹いていた時には、マーチでは裏打ちばっかり、クラシックでは無茶ぶりさせられるホルンパートを後ろから見ていて、気の毒に思っていました。
でも、大学に入ってホルンを始めて10数年、今ではすっかりホルンの魅力にとりつかれてしまっています。
そんなホルンの魅力を、色んな謎と共に解き明かしちゃいましょう。
▼目次(クリックで見出しへジャンプ)
ホルンが難しい3つの理由
ホルンが難しい、と言われるのには大きく3つの理由があると思います。
1つずつ、解き明かしてみましょうね。
マウスピースが小さい
トランペットとあまり変わらないんじゃない?と思ったあなた、ホルンのマウスピースをよーく見てみてください。
ホルンのマウスピースはリムも薄く、カップもトランペットのマウスピースに較べると、遥かに狭いです。
その分、息が入りづらく音が安定しないので、コントロールが難しくなりますよね。
そのコントロールをどこでするかというと、唇で微調整するので唇への負担が大きくなります。
決して、唇だけでコントロールするわけではなく、ブレスコントロールも必要です。
ただ、他の金管楽器に較べると、マウスピースが小さい分、唇への負担が大きい為、難しいと言われるのでしょう。
管が細くて長いのにベルが広い
これは、何を意味するかというと、ズバリ、『音程のコントロールの難しさ』を意味するんです。
F管の長さは約3.8mもあります!
その割には、細いですよね。
なのに、音が出るベルは円錐形に開いている為、右手で微妙な音程をコントロールするんですが、人によって、当然手の形も違います。
だから、同じ楽器を同じレベルの同じような体格の人でも、違う人が吹けば全く違う音が出ます。
その差が顕著な楽器は、ホルンだけだと思います。
指使いが多い
ホルンのレバーを押して楽器の裏側を見ると分かるんですが、1つレバーを押すごとに管が長くなっていきます。
つまり、音が下がっていく、管の調が下がっていくんです。
因みに、F管で2番レバーを押すと半音下がり、1番レバーを押すと更に半音下がり、1・2番レバーを同時、若しくは3番レバーを押すと、1音下がります。
これはB♭管でも同じです。
また、1つの音でもいくつかの指使いがあり、それぞれで微妙に音程が異なることがあるので覚えておいた方が良いんです。
それに加え、レバーを押さずに出す倍音をF管では16音も出すことができます。
これは、口のコントロールだけで出しますが、一般的によく使用されるダブルホルンでは、B♭管とF管の両方の指使いを覚えなければならないので、難しい!と言われるのも無理はありません。
因みに、私は最初の頃は指使いを覚えきれずに、運指を楽譜に書きこんでいた事もありました。
ホルンで難しい曲3選
ホルンで難しい曲、というと一般的には技術的に難しい曲、と言われることが多いかと思います。
そんな曲を3曲、独断と偏見で挙げてみました。
第3位:シューマン 交響曲第2番
この曲ではホルンは、地味にずっと吹いているんです。
そんなに吹く必要ある?って位、吹いています。
しかも、目立たない割に、木管楽器のアンサンブルを壊さないように、ホルンもアンサンブルを壊してはいけないんです。
地味に慎重に吹いていないといけないのに、ホルンは目立たない、つまりホルン吹きにとっては面白くない、そういう意味で難しい曲だと思います。
第2位:シベリウス 交響曲第2番
全体的に変拍子の為、リズム取りだけを見るとホルンだけが難しいとは言い切れないかもしれませんが、ホルンパートに特化すると、終始アンサンブルの高い技術が必要とされます。
正直、ホルンのアンサンブルができていなかったら、この曲は成り立ちません。
それ位、覚悟して臨まなければならない曲です。
ただ、前のシューマンの曲と違って、ホルンのアンサンブルが金管楽器として(これ、時々大事です)とても効果的に使われていたり、ホルンパート自体が目立ったりして、とても美味しい曲なんです。
そういう意味では、練習のし甲斐もあり、うまく演奏出来た時の達成感は大きいと思いますよ。
第1位:ベートーヴェン 交響曲第6番『田園』
この曲は有名なので、演奏したことがある方も多いかもしれません。
ただこの曲、何が難しいかというと、ホルンは金管楽器。
なのに、それを忘れずして木管楽器になりきらなければならないところが究極に難しいところだと思います。
基本的に、木管楽器で柔らかな田園の風景が奏でられるこの曲の中で、ホルンは柔らかくも芯のある音を立たせる必要があります。
技術的にも、ハイトーンのソロがあったり、ホルンパートのアンサンブルだけでなく、木管楽器とのアンサンブルもあったりと、非常に厄介な曲です。
楽譜面だけ見て、『何だ、簡単じゃん!』となめてかかったらお終いです。
ただ、かなり奥が深い曲だけに、これは非常に演奏のし甲斐がある曲だと思います。
そういう意味で、難しい曲、ナンバー1に挙げてみました。
ホルンが難しい場合の対処法
もちろん、ホルンには難しい曲ばかりではないので、どうぞご心配なく~♪
吹きやすい曲も沢山あるんですが、それらに共通するのは
- 曲の音域がそれほど広くない。
- アンサンブルが難しくない。
- 早い、パッセージがあまりない。
この3つを満たす曲は、最初に挙げた3つの『ホルンが難しい理由』を一挙に解決してくれるんです!
そんな曲を3曲、また独断と偏見で挙げてみました。
チャイコフスキー バレエ組曲『くるみ割り人形』より『花のワルツ』
お馴染みのメロディが、ホルンでもアンサンブルで吹けるこの曲!
えー、でも何度も同じメロディばっかりで面白くない・・・なんて思わないでくださいね。
木管楽器でも同じメロディを吹いているので、それに馴染むようにホルンでも柔らかく暖かい響きで奏でなければならないので、周りの楽器と馴染む努力は必要です。
この曲の場合、各々がしっかり息を吹き込めばアンサンブル自体は難しくありません。
また、音域もさほど広くないのできちんと練習をすれば、奏者も楽しめること、間違いないです。
ヘンデル 『水上の音楽』より『アラ・ホーンパイプ』
これはホルンのアンサンブルがとても効果的に使われていて美味しい曲、かつ4分位の短い曲なので、ホルン吹きなら必ず吹きたくなること、間違いなしです!
音程のコントロールが鍵!
短い曲の中で、ホルンがとても効果的に使われているだけに、音程が狂っていると最悪、としか言いようがありません・・・。
個人練習の時はもちろんですが、パート練習でどんな状況でもしっかりと皆の音程を合わせることが大切だと思います。
ホルスト 組曲『惑星』より『木星』
これはホルンの為にあるような曲と言ってもいいでしょう。
ホルンはこの曲では、アンサンブルというよりは、ほぼユニゾンなので安心して吹く事ができるのがお勧めの最大の理由の1つです。
最初こそ早いフレーズがあるものの、後は広大なゆったりとしたメロディがほとんどなのも吹きやすさとして挙げられます。
ただ、ホルンが本当に広大で目立つだけにしっかりと息を吹きこまないと、曲自体にメリハリがなくなるので注意が必要です。
前の2曲と違って、音域が比較的広い曲なので、しっかり息を吹き込む練習が欠かせません。
ただ、かすかな音でゴニョゴニョと吹く、といった動きが殆ど無い分、思い切って吹く事ができるので、吹きやすい曲だと思います。
ホルンの魅力
ホルンは金管楽器なのに、アンサンブルの世界では木管8重奏の仲間に加えてもらえるんです。
それはホルンの、柔らかいのに芯のある音色が持つ魅力のおかげだと思っています。
確かに、最初は難しいかもしれません。
右利きの方が比較的多い中で、ホルンは左でレバーを押さなければならないので、早いパッセージがあると、冬は特に泣きたくなります。
ただ、その辛抱も最初のうちだけなんです。
一生懸命練習して簡単な曲でも吹けるようになると、耳が自然と『ホルン耳』になって、『あ、この綺麗な響きはホルンが吹いていたんだ!』と嬉しくなると思いますよ。
ジブリ作品の『天空の城ラピュタ』では、トランペットがやたらと目立ちますが、実はエンディングテーマの最後で、ホルンが素敵な響きを奏でています。
機会があったら是非、聴いてみてくださいね。
そうやって、耳が『ホルン耳』になったら、上達への道は開かれたも同然です。
練習して、良い演奏を聴く。
そして更に練習して、もっと良い演奏を聴く、そうすることでもっともっとホルンの魅力に魅かれること、請け合いです。
まとめ
- ホルンは難しい理由は主に3つ。
- ホルンで難しい曲は、基本的にアンサンブルの技術を要するけど、演奏のし甲斐もある
- ホルンの魅力を味わえる曲は、難しい点をカバーできる曲。
ホルンは確かに、難しい楽器と言われています。
ただ、難しい曲しかないわけではなく、聴きなれた曲にも吹きやすい曲は沢山あるので、ホルンの難点を逆手にとって、魅力をもっと伝えることができるようになると、もっと吹きたくなりますよ。