「話し合いが煮詰まってきた」という文から、どんな状態を思い浮かべますか?
A、結論が出る段階が近い状態
B、結論が見えず困っている状態
じつは、Aだと思う人も、Bだと思う人も、どちらもいるのです。
「煮詰まる」から思い浮かべる状況が、人によっては、正反対になることもあるのです。
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煮詰まるの間違った使い方
「煮詰まる」を、「新たな展開が望めない状態」という意味と思っている人は少なくありません。
例:何時間も議論したが、煮詰まってしまい、結論は出なかった。
実は、これは誤った使い方です。
しかし、最近は、誤った意味で使う人が増えたため、辞書にも、「煮詰まる」の説明に「議論や考えなどがこれ以上発展せず、行き詰まる」という記述が加わるようになりました。
煮詰まるの正しい意味は?
「煮詰まる」の本来の意味は、「長時間煮て、水分がなくなる」ことです。
煮物料理をするときのことを思い出してください。
鍋に材料と調味料を入れ煮込むと、だんだん水分が蒸発していき、やがて味がしっかりとついた、おいしい煮物ができます。
そこから、「十分に議論をして、結論が出る状態になる」という意味に使われるようになりました。
煮詰まる=(煮物が煮えるように)もうすぐできあがる、というのが正しい意味なのです。
なぜ、意味を間違えるの?
「結論が出そうな状態」というプラスの意味だった「煮詰まる」が、「にっちもさっちもいかない状態」とマイナスの意味で受け止められるようになったのは、なぜでしょうか。
おそらく、「行き詰まる」と混同したからではないでしょうか。
これ以上先に進めないという「行き詰まる」からの連想で、「煮詰まる」を「もう、どうにもならない」と受け取ったのでしょう。
確かに、料理でも、煮込み過ぎると、焦げ付いたり味が濃くなり過ぎたりして困ってしまうことはありますね。
正反対の受け取り方をされるかも?
今まで見てきたように、「煮詰まる」を、ある人はプラスの意味だと思い、ある人はマイナスの意味だと思ってしまいます。
文化庁の調査では、若い世代は「結論が出せない状態になること」という意味、年配の世代は「結論の出る状態になること」という意味に受け取る傾向があります。
(平成19年度「国語に関する世論調査」)
と、いうことは……たとえば、社員たちが会議をしているところに、上司がやってきて会議の進み具合を尋ねたとします。
社員たちは「結論が出そうにない」という意味で「煮詰まっています」と答えたのに、上司は「もうすぐ結論が出る」と思ってしまうかもしれません。
「煮詰まる」は、話し手と聞き手で、意味を真逆に受け取る可能性がある言葉なのです。
煮詰まるの対義語は?
正しい意味の「煮詰まる」(結論が出せそうだ)の対義語は、「行き詰まる」(先に進めない)と言えそうです。
加えて「煮詰まる」の対義語として「生煮え」を挙げる辞書もあります。
「生煮え」は、本来は食べ物がよく煮えていないことですが、転じて、人の態度がはっきりしない、という意味でも、そして、議論が不十分だという意味でも使われることがあるようです。
例:生煮えの返事をするな。
例:長時間議論して、こんな生煮えの結論しか出せないのか。
まとめ
- 「煮詰まる」の正しい意味は、「議論を重ねて結論が出せそうな状態になっている」ということ。
- 「煮詰まる」を「結論が出ない、行き詰まった状態」と考える人もいる。
「煮詰まる」を使うときは、自分の思っている意味とは正反対に受け取る人がいる、と考えるようにしましょう。
できれば「煮詰まる」の意味が分かるように、何か言葉を付け加えることをおすすめします。
たとえば、「煮詰まって、先に進めなくて困っています」とか「煮詰まってきたから、もうそろそろ結論が出ます」のように。
言葉は生き物、時代と共に変化していくもの。
「煮詰まる」の受け取り方の変化を見て、改めてそう感じました。