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知識・教養

「煮詰まる」の使い方と意味の遷移

「議論が煮詰まった」といったら、皆さんはどのような状況を思い浮かべますか?
「国語に関する世論調査」で「煮詰まる」の意味について尋ねたところ、50代以上の世代と30代以下の世代では正反対のとらえ方をしていることが分かりました。
また、さらに調べていくと時代によって「煮詰まる」の意味が変わっていっていることがわかりましたので、ご紹介したいと思います。

「煮詰まる」の意味

広辞苑 第5版(平成10年 岩波書店)

①煮えて水分がなくなる。
②転じて、議論や考えなどが出尽くして結論を出す段階になる。
「煮詰まる」は、煮物などでだんだんと煮汁が少なくなっていくことをいう言葉です。
それが比喩的に転じて、話し合いなどで意見が十分に交わされて結論を出す段階になるという意味でも用いられてきました。
さて、次に同様の広辞苑の次版である「第6版」(平成20年)で「煮詰まる」の意味を調べてみると以下のようになりました。

広辞苑 第6版(平成20年 岩波書店)

①煮えて水分がなくなる。
②議論や考えなどが出尽くして結論出す段階になる。
③転じて、議論や考えなどがこれ以上発展せず、行きづまる。
①と②の記述は第5版とほぼ同様の内容ですが、③の意味が新たに加わっていますね。
第5版と第6版の間の10年間に新しい意味がついてしまったと考えられます。
さらに、日本国語大辞典についても確認してみます。

日本国語大辞典 第2版(平成15年 小学館)

①煮えすぎて水分が蒸発してしまう。
②議論や考えなどが出つくして,問題点が明瞭な段階になる。
③問題や状態などが行きづまってどうにもならなくなる。
平成15年でも③の意味が含まれていることがわかりますね。

「国語に関する世論調査」について

平成19年度の「国語に関する世論調査」で、「7日間に及ぶ議論で、計画が煮詰まった。」という例文をあげ、「煮詰まる」の意味を尋ねたところ以下のようになりました。

「国語に関する世論調査(平成19年度)」の結果

回答 平成19年度(%)
①(議論が行き詰まってしまって)結論が出せない状態になること 37.3
②(議論が十分に出尽くして)結論の出る状態になること 56.7
①と②の両方 1.2
①と②とは全く別の意味 0.2
わからない 4.6

全体では、本来の意味である「(議論や意見が十分に出尽くして)結論の出る状態になること」を選択した人の割合が高くなっています。
しかし、年代別の結果を示すグラフがX型になっていることからも分かる通り、40代を境にして「結論の出る状態になること」と「結論が出せない状態になること」を選んでいる人の割合がはっきりと逆転しています。
つまり、若い世代では「結論が出せない状態」、年配の世代では「結論の出る状態」というように、正反対の意味でこの言葉を使っている可能性があるのです。
先に挙げた広辞苑の改訂も、このような使用状況を反映したものと言えますね。
使う人によって、正反対の意味で用いられることのある言葉は、コミュニケーションの上で重大な誤解を生む危険があり注意が必要です。
ではこのような「煮詰まる」の意味の揺れは、どのような理由で起きているのでしょうか。
一つには、物事がうまく運ばない状態を意味する「行き詰まる」という言葉の影響を受けていることなどが考えられます。
また,比喩的な用法以前の問題としても、例えば料理が煮えすぎて水分が蒸発してしまい、味が濃くなりすぎたり焦げ付いてしまったりといった望ましくない経験をすることは誰にでもあるでしょう。
その結果、中身が濃縮していくという面に着目した本来の意味が忘れられ、行き詰まってしまうというマイナスイメージと結び付きやすくなっているということがあるのかもしれません。

まとめ

  • 本来の意味は「煮えて水分がなくなる」と「議論や考えなどが出尽くして結論を出す段階になる」
  • マイナスなイメージから全く逆の意味がついてしまった

今回は「煮詰まる」の使い方と意味の遷移についてご紹介しました。