「時間がないから、話のさわりだけ教えてよ」と頼まれたら、どこを教えればよいのでしょうか?
話の最初の部分?
それとも、話の一番盛り上がる部分?
さて、「さわり」って、どういう意味なのでしょうか。
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さわりの意味・由来
「さわり(触り)」は、元々浄瑠璃の用語で、浄瑠璃の流派の一つ、義太夫節(ぎだゆうぶし)で最も聞かせどころの部分のことです。
義太夫節以外の優れた曲節を取り入れた箇所を、他の曲に「触っている」との意味で「サワリ」と言ったことから、一曲のうちの最も聞かせどころの部分を「さわり」と呼ぶようになりました。
それが他の楽曲やお話、映画などに転用されて、中心となる部分や、名場面を意味するようになったのです。
さわりの使い方・例文
正しい使い方
「さわり」は、本来は「名場面」「肝心なところ」という意味で使われます。
例:この曲は、後半のさわりの部分に入るコーラスの声が、とても印象的だね。
間違った使い方
「さわり」という言葉の意味や音の響きが、「軽く触れる」イメージを伴っているため、表面的に触れるという意味に取り違えられて、「最初の部分」や「一部分」と思われてしまうようですが、これは誤用です。
さわり→さらり・さわさわ……確かに軽く触れるだけのような語感がありますけれどね。
× この曲は、練習を始めたばかりで、まだ、さわりしか弾けないのです。
さわりを別の言葉で言い換えると?
楽曲で言えば「サビ」「聞きどころ」という言葉に置き換えられますし、小説・映画・演劇などでは「ヤマ場」「クライマックス」「名場面」「見どころ」とも言えます。
サビ
「サビ」は、歌謡曲やJ-POPなどで、一番盛り上がる部分を表す言葉として使われます。
寿司の「ワサビ」のように、インパクトがあるからという説や、俳句の「わび・さび」(松尾芭蕉が唱えた俳句の美意識を表す言葉)から来たという説もあります。
また、低く凄みがある渋い声を「寂声(さびごえ)」と呼びますが、それが由来だという人もいます。
「曲調が変わるところ=寂声」が誤解されて「盛り上がるところ=寂声」となったという考えです。
いずれにせよ、「曲のサビ=曲のさわり」と、覚えておくと良いですね。
まとめ
- 「さわり」とは、楽曲や映画などの、一番盛り上がる箇所のこと
- 導入部・始まりの部分のことではない
文化庁の調査(平成19年度)では、さわりを「最初の部分」だと思っている人の方が、正しい意味を知っていた人よりも、多くいました。
実は私も、誤っていた一人ですが、今回、さわりの語源・由来を学んで「なるほど、そういうことか」と納得しました。
よく思うことですが、語源(ことばの歴史)を知るというのは、本当に面白いことですね。